
建築物の解体・改修工事では、原則として工事前に石綿含有の有無を事前調査する必要があります。改正法令により、2021年4月から調査方法等が強化され、2022年4月から一定規模以上の工事で結果報告、2023年10月から建築物の事前調査を有資格者に行わせることが義務化されました。
アスベストを含む外壁は、見た目だけでは正確に見分けられません。本記事では、これからアスベスト調査に携わる方に向けて、石綿を含む可能性のある外壁材の種類や確認方法、工事時の注意点を説明します。
| 【この記事でわかること】 ・アスベストが使用された可能性のある外壁材 ・外壁の石綿含有を確認するための3つの手がかり改修 ・解体前に必要な事前調査と飛散防止対策 |
アスベスト(石綿)とはそもそも何?特徴と使用の歴史
アスベスト外壁の見分け方を理解するために、まずはアスベストについて詳しく知っておきましょう。ここでは、その基本的な特徴と使用の歴史を紹介します。
アスベストの基本的な特性
アスベストは、天然に産出される極めて細い繊維状の鉱物です。石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれ、現代では健康被害を招く可能性がある物質として知られています。
石綿は熱や摩擦に強く、丈夫で変化しにくいなどの性質を持つため、建材や工業製品に広く利用されました。そのため、かつては「奇跡の鉱物」と呼ばれていたという記録もあります。
アスベスト活用の歴史
日本では、1887年頃からアスベストの輸入が始まり、1910年代には石綿スレートの国内製造も始まりました。石綿含有建材は戦前から使用され、軍艦や民間の各種機械の保温材・断熱材に多く使われたほか、戦時中には船舶や飛行機などの軍事用途にも用いられた歴史があります。
戦後は、住宅不足の解消に向けて住宅建設が進む一方、建材不足や都市の不燃化が課題となり、スレートなどの石綿含有建材の需要が高まりました。
1955年頃から吹付け石綿の使用が始まり、1964年頃から一般化。1967年頃以降は、建築物の高層化や鉄骨構造化に伴って、鉄骨造建築物の軽量耐火被覆材として大量に使用されました。
アスベストはどのような目的で使われてきた?
アスベストによる健康リスクが知られる以前には、建材のほか、プラント・設備の保温材や断熱材、自動車部品、機械の消耗品などに使用されていました。
1950〜1970年代にかけては国内の住宅・学校・病院や工場にいたるまで、幅広い建造物の建材として使用されてきました。そのため、健康リスクが明らかになった今ではその調査・除去・処理が大きな課題とされています。
アスベスト含有建材の除去・解体時に措置が必要な理由
アスベストを含有する建材を切断・研磨・除去すると、繊維が空気中に飛散する場合があります。飛散した繊維の吸入は、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などを発症する原因となります。
ただし、石綿は建材に含まれているだけで、直ちに健康被害をもたらすものではありません。問題となるのは、解体・改修や劣化によって繊維が飛散し、作業者や周辺住民が吸入することです。石綿繊維の飛散しやすさは、建材の種類や状態によって異なります。
「石綿含有建材のレベル」について
石綿含有建材は、解体・改修工事などでの発じん性の高さを目安として、一般に「レベル1~3」に区分されています。レベル1には石綿含有吹付け材、レベル2には石綿含有保温材・断熱材・耐火被覆材、レベル3にはそれ以外の石綿含有建材が該当します。
外壁に使用される窯業系サイディングや押出成形セメント板などの石綿含有成形板は、主にレベル3に分類されます。これらは石綿がセメントなどで固められているため、レベル1・2の建材と比べて発じん性が低く、通常の状態で使用しているだけで直ちに石綿が飛散するものではありません。
ただし、劣化や破損が進んでいる場合や、改修・解体工事で切断・破砕などを行う場合には、石綿繊維が飛散するおそれがあります。そのため、レベル3の建材であっても、工事の際には事前調査や飛散防止措置が必要です。
参考:厚生労働省・環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(令和8年2月改正)(https://www.env.go.jp/content/000376956.pdf)」
アスベストの使用が見られる外壁材の例
外壁には、板状の建材だけでなく、仕上塗材や下地調整塗材にもアスベストが使用された例があります。ここでは、代表的な外壁材を紹介します。
窯業系(ようぎょうけい)サイディング
窯業系サイディングは、セメント質原料と繊維質原料などを混ぜ合わせ、板状に成形した外壁材です。戸建て住宅を中心に、外壁材として広く使用されてきました。
過去に製造された窯業系サイディングのなかには、強度や耐久性を補うため、繊維質原料の一つとしてアスベストを使用した製品もあります。
仕上塗材
建築用仕上塗材は、建築物の内外装の保護や意匠を目的として、表面に施工される材料です。
リシン、スタッコ、吹付タイルなどの建築用仕上塗材や下地調整塗材には、過去に石綿を含む製品が製造・販売されていました。
スレート波板
スレート波板(波型スレート)とは、工場や倉庫、ガレージの外壁や屋根などによく使われる、波打った形状のセメント板のことです。
過去に製造されたスレート波板のなかには、アスベストを含む製品もあります。
押出成形セメント板(ECP)
押出成形セメント板は、セメント・けい酸質原料・繊維質原料を主原料とし、中空を有する板状に押出成形した建材です。主として、中高層の鉄骨造建築物の外壁や間仕切壁に使用されています。
過去に製造された押出成形セメント板のなかには、石綿を含む製品もあります。国土交通省の資料では、石綿含有押出成形セメント板の製造時期の目安は1970~2004年とされています。
アスベストを含む外壁の見分け方|3つの判断の手がかり
外壁にアスベストが含まれているかどうかを、色や模様、表面の質感などの外観だけで正確に見分けることはできません。石綿を含む窯業系サイディングと、石綿を含まない製品は外観が似ている場合があり、仕上塗材や下地調整塗材についても見た目だけでは判別できないためです。
外壁のアスベストの見分け方を調べる際は、外観から断定しようとせず、次の3つの情報を「石綿含有の可能性を疑う手がかり」として確認します。
| 【アスベストを含む外壁の見分け方|3つの判断の手がかり】 1.建築物と外壁の施工時期 2.増改築・改修・補修の履歴 3.設計図書・仕様書・製品情報 |
1. 建築物と外壁の施工時期を確認する
まず、建築物の着工時期と、調査対象となる外壁が施工された時期を確認します。2006年9月1日より前に着工した建築物では、石綿含有建材が使われている可能性があります。
ただし、築年数だけでアスベスト含有の有無を判断することはできません。建物本体の着工時期と、外壁や補修材が施工された時期が異なる場合もあるため、工事対象となる部位ごとの確認が必要です。
2. 増改築・改修・補修の履歴を確認する
増改築や外壁改修、部分的な補修が行われている場合は、それぞれの工事時期と施工範囲を確認します。
工事記録や修繕履歴、当時の写真などが残っている場合は、設計図書とあわせて確認しましょう。
3. 設計図書・仕様書・製品情報を確認する
建築当時の設計図書や施工仕様書、改修工事の記録などから、外壁に使用された建材名・メーカー名・商品名・型番・施工時期を確認します。製品を特定できた場合は、メーカーの公表情報や石綿含有建材データベースなどとの照合が必要です。
ただし、書類に記載された内容と、実際に施工されている建材が一致しているとは限りません。書面だけで判断できない場合は、有資格者が現地で建材の製品情報や施工状況を確認します。
書面調査と現地調査を行なっても石綿含有の有無がわからない場合は、分析調査を行うか、石綿含有建材とみなして必要な対策を講じます。
外壁のアスベストを見分ける際に誤解しやすい3つのケース
外壁にアスベストが含まれているかを確認する際は、築年数や外観から早い段階で「含まれていない」と判断しないことが大切です。
ここでは、見落としや誤解が生じやすい3つのケースを紹介します。
| 【外壁のアスベストを見分ける際に誤解しやすい3つのケース】 1.建物が新しく見えても古い外壁材や補修材が残っている 2.石綿含有サイディングと石綿を含まない製品の外観が似ている 3.板状の外壁材ではなく仕上塗材や下地調整塗材に含まれている |
1. 建物が新しく見えても古い外壁材や補修材が残っている
建物本体の築年数が新しく、外観がキレイであっても、すべての部位が同じ時期に施工されたとは限りません。
増改築の際に古い物置や外壁の一部が残されていたり、以前に施工された外壁材・補修材が撤去されていなかったりすることもあります。建物全体の築年数だけで判断せず、工事対象となる外壁の施工時期や改修履歴を個別に確認してください。
2. 石綿含有サイディングと石綿を含まない製品の外観が似ている
石綿を含む窯業系サイディングと、石綿を含まない窯業系サイディングは、製品によって表面のデザインや質感が似ている場合があります。
そのため、「灰色である」「表面がざらざらしている」といった外観上の特徴だけでは、石綿含有の有無を判定できません。メーカー名や商品名、型番、製造時期などを確認し、製品情報と照合する必要があります。
3. 板状の外壁材ではなく仕上塗材や下地調整塗材に含まれている
アスベストが使用されていた可能性があるのは、窯業系サイディングなどの板状の外壁材だけではありません。コンクリートなどの表面に施工された建築用仕上塗材や、その下地に使われる下地調整塗材にも含まれていた例があります。
これらは外壁の仕上げ層として施工されているため、見た目から石綿含有の有無を判別することはできません。設計図書や製品情報で特定できない場合は、分析調査による確認が必要です。
このように、外壁のアスベスト含有は、見た目や表面の質感による自己判断では確定できません。外壁の改修・解体を予定している場合は、むやみに触ったり削ったりせず、有資格者による事前調査を依頼してください。
アスベスト含有の外壁にやってはいけない3つの行動

アスベストを含む可能性がある外壁を不用意に削ったり壊したりすると、石綿を含む粉じんが飛散し、作業者や周囲の人が吸い込むおそれがあります。また、外壁の見た目だけでアスベストの有無を正確に判断することはできません。
ここでは、安全を確保するために避けるべき3つの行動を解説します。
| 【アスベスト含有の外壁にやってはいけない3つの行動】 1.「高圧洗浄機」で激しく洗う 2.削る・サンダーをかける・切断する 3.高損耗の箇所を放置する・触る |
1. 「高圧洗浄機」で激しく洗う
アスベスト含有の可能性がある外壁に高圧の水を当てると、表面を損傷させ、粉じんや剥離物が発生するおそれがあります。
石綿含有仕上塗材の除去に高圧水洗を用いる場合は、法令に基づく事前調査や作業計画の作成、飛散防止、廃水処理などの対策が必要です。外壁の汚れや劣化が気になる場合も、自己判断で高圧洗浄を行わず、専門事業者へ相談してください。
2. 削る・サンダーをかける・切断する
外壁材の切断・研磨・穴あけなどを行うと、建材の内部に含まれる石綿繊維が粉じんとともに飛散するおそれがあります。
外壁への設備の取り付けや部分的な補修であっても、アスベストの有無を確認しないまま作業を進めるのは避けてください。工事が必要な場合は、事前調査を行ったうえで、建材の種類や作業方法に応じた飛散防止対策を講じる必要があります。
3. 高損耗の箇所を放置する・触る
石綿含有セメント板などでは、長期間風雨にさらされることで表面が劣化し、石綿繊維が露出する場合があります。ひび割れや欠け、剥がれなどが生じている箇所を素手で触ったり、自己判断で補修したりすると、建材をさらに損傷させ、粉じんが飛散するおそれがあるため注意が必要です。
劣化しているからといって直ちに石綿が飛散するとは限りませんが、著しい破損や剥離がみられる場合は不用意に触らず、専門事業者へ相談しましょう。
アスベスト含有外壁の改修・解体時に必要な調査と対策
アスベストを含む可能性のある外壁を改修・解体する場合は、着工前の事前調査と、調査結果や作業内容に応じた飛散防止対策が必要です。
外壁の改修・解体前に必要な事前調査と報告
建築物の解体・改修工事では、工事の規模や請負金額にかかわらず、原則として着工前にアスベストの有無を調査します。2023年10月1日以降に着工する建築物の工事では、原則として法令で定められた資格を有する者による事前調査が必要です。
建築物の解体工事では解体部分の床面積が80㎡以上、建築物の改修工事と特定の工作物の解体・改修工事では請負金額が税込100万円以上の場合が報告対象です。該当する工事では、調査結果を労働基準監督署と自治体へ報告します。なお、これらの基準に満たない工事でも、事前調査そのものが不要になるわけではありません。
外壁の改修・解体時に必要な飛散防止対策
事前調査で外壁材にアスベストが含まれていることが判明した場合、または石綿含有建材とみなして工事を行う場合は、飛散防止対策が必要です。その際は、調査結果をもとに作業計画を立て、建材の種類や劣化状態、工法に応じた対策を講じます。
窯業系サイディングや押出成形セメント板などの石綿含有成形板は、原則として切断・破砕をせず、原形のまま取り外す必要があります。やむを得ず切断などを行う場合は、建材や切断面を湿潤な状態に保ち、必要に応じて作業場所の隔離養生を行います。作業者は適切な保護具を着用し、作業後は周辺を清掃したうえで、取り外した建材や廃棄物を飛散しないよう梱包し、法令に従って処理してください。
外壁の事前調査・報告で起こりやすいミス
外壁は、過去の改修によって塗材が何層にも重なっている場合があります。表面の層だけを採取すると、下層に残る石綿含有塗材や下地調整材を見落とす可能性があるため、注意が必要です。
また、外壁の方角や増改築部分によって建材が異なる場合は、写真の撮影位置や試料の採取箇所を図面と対応づけて記録します。対応関係が不明確だと、報告書作成時に写真や採取位置を混同する可能性があるので、注意しましょう。
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