
建物の解体・改修工事を行う際には、アスベストの事前調査が必要です。調査方法や行政への報告条件を誤ると、工期の遅れや法令違反につながるおそれがあるため、施工計画・安全管理の担当者は、必要な資格や記録・掲示・保存の義務を正しく理解しておかなければなりません。
本記事では、アスベスト事前調査の流れを4つのステップに分け、書面調査・現地調査・分析調査から、結果の報告・記録まで解説します。調査にかかる費用や注意点、業務を効率化する方法も紹介します。
アスベスト調査の概要、重要性や背景
アスベストとは、すぐれた性質と扱いやすさから注目され、かつてはさまざまな建物で断熱材や防音材、保温材などとして使用されていた建築資材です。
なぜ今の時代になってアスベスト調査が必須となったのか、そもそもアスベスト調査とはどういった性質のものなのか、「アスベストとは何か」といった基本的な部分からまとめました。
アスベストとは何か
「アスベスト」は天然に産出される鉱物の一種で、日本では石綿(いしわた・せきめん)とも呼ばれます。
繊維状の鉱物であり、加工しやすく、熱や摩擦、酸やアルカリなどによる外部からの刺激にも強くて丈夫な性質をもつことから、かつては「奇跡の鉱物」として建築素材に多く活用されていたといわれています。
現代においては、繊維を吸い込むと健康被害につながるおそれがある物質として知られています。
アスベストによる健康リスク例
アスベストは細かな繊維からなり、飛散すると空気中に浮遊しやすいことが特徴です。なかでも、建築素材として過去に多く活用されたクリソタイル(白石綿)の直径は、およそ0.02~0.08μm(マイクロメートル。1μmは0.001mm)です。
この非常に細かな繊維を吸い込むと、以下のような病気を引き起こす可能性があると指摘されています。
▼アスベストによる健康リスク例▼
・石綿肺(アスベスト症):肺が繊維化する「じん肺」という病気のうちの一種です。咳や息切れなどの初期症状から、やがては深刻な呼吸困難へと至ることもあります。
・肺がん:肺胞や気管支などの細胞が、何らかの理由・原因でがん化したものです。咳や痰などの症状がみられ、病気が進行すると周囲の組織の破壊や、骨・脳・他臓器への転移といった事態を引き起こします。
・悪性中皮腫:肺周辺に位置する胸膜や、胃をとり囲む腹膜、心臓周辺の心膜などにできる悪性の腫瘍です。息切れや胸痛、咳、腹痛など、腫瘍の位置によってさまざまな症状があらわれます。
アスベストによって引き起こされるこれらの健康被害は、一般的に発症までの潜伏期間が長くなる傾向にあります。そのため、過去にアスベスト建材の施工に従事した経験があったり、家庭内や近隣での建物からばく露したりという可能性がある人は、長期的な目で、健康状態の変化に留意してください。
アスベスト調査に関する法改正内容および義務
アスベストを含む建材は、日本国内でも長期間にわたって製造・使用されてきました。1972年に国際労働機関(ILO)や世界保健機関(WHO)がアスベストの発がん性を指摘して以降、製造・使用や解体・改修工事に関する法規制が段階的に強化されています。
現在では、法令の対象となる建築物や工作物の解体・改修工事を行う際に、アスベストの有無を確認する事前調査が原則として必要です。
ここでは簡単な振り返りとして、アスベストが使用されていた時期や、事前調査に関する制度が整備されてきた経緯を表にまとめます。
アスベスト建材の製造・使用についての法規制
| 1975年 | 製品のアスベスト含有率が重量の5%を超える場合、吹き付け作業を禁止。 |
| 1995年 | アモサイト(茶石綿)・クロシドライト(青石綿)の製造や輸入・使用、製品のアスベスト含有率が重量の1%を超える場合の吹き付け作業を禁止。 |
| 2006年 | アスベスト含有率が重量の0.1%を超える製品の製造・輸入・譲渡・提供・使用を禁止 |
解体・改修工事についての法規制
| 1989年 | アスベストが大気汚染防止法における「特定粉じん」に指定。 |
| 1995年 | 吹付け石綿の除去作業で、作業場所の隔離や呼吸用保護具・保護衣の使用などの措置が義務化。 |
| 2021年 | 4月より改正大気汚染防止法が施行開始。2022年、2023年、と三段階に分けて段階施行。事前調査方法の法定化、結果の記録・保存、発注者への書面説明などが強化。 |
| 2023年 | 事前調査について、厚生労働大臣が定めた講習(建築物石綿含有建材調査者講習など)を修了した者が行うことと定められる。 |
| 2026年 | 一部の工作物の解体・改修工事で、工作物石綿事前調査者などの資格者による事前調査が義務化。 |
アスベスト事前調査に関する事業者の主な義務
法令の対象となる建築物や工作物の解体・改修工事では、アスベスト事前調査に関する事業者に対して次のような対応が求められます。
▼アスベスト事前調査に関する事業者の主な義務▼
・アスベスト含有の有無についての事前調査の実施
・工事現場における調査結果の掲示
・発注者(建物の所有者など)への調査結果の報告
・行政への調査結果報告(一定規模以上の工事の場合)
・アスベストが含まれると判明した場合の、適切な隔離および飛散防止措置
なお、工事の発注者には、設計図書や過去の改修記録など事前調査に必要な情報を元請業者へ通知するよう努めることが求められます。また、石綿対策に必要な費用や工期、作業方法への配慮が必要です。
法改正に伴って調査会社・施工会社の作業負担は増大
前述のように、アスベストの事前調査に関する法令については調査義務の拡大、調査者に資格が必須になるなど年を追うごとに厳格化されており、ルールの把握や事前準備なども含めて調査会社や施工会社の作業負担も増大しています。
下記は、負担が増大したケースの一例です。すべての現場で当てはまるわけではありませんが、該当する場合の解決支援策とあわせてご紹介します。
▼作業負担増大の一例▼
・写真管理の増加:調査した箇所だけでなく、石綿なしと判断した箇所や書面上の判定根拠も、図面・写真・記録を対応づけて保存する必要があるが、その結果として管理業務が膨大化する
・報告書類の作成・電子報告などの手間が増大: 「石綿事前調査結果報告システム」への入力作業や、発注者への書面説明、現場への掲示・備え付けなど、ペーパーワークおよび諸作業が増加し、場合によっては法改正前より数倍の負担となっている
アスベスト調査の必要性・間違いやすい点
アスベスト調査は、工事に伴う石綿の飛散や作業者のばく露を防ぎ、法令に沿って解体・改修工事を進めるために欠かせません。ただし、調査を行える資格者や必要な対応は、工事の着工日や調査対象によって異なります。
ここでは、アスベスト調査を行う際に特に注意したいポイントを解説します。
事前調査は有資格者が行う必要がある
アスベスト含有の有無を確認する事前調査は、誰でも行えるものではありません。2023年10月1日以降に着工する建築物の解体・改修工事では、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による調査が必要です。
過去の運用のまま進めると、現在の資格者要件を満たさないおそれがあります。着工日や調査対象を確認し、対応する資格を持つ調査者を選任しましょう。
具体的には、建築物の種類や調査対象に応じて、以下の資格を持つ人物が調査を行います。
▼アスベスト調査を実施できる資格者▼
・特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者):すべての建築物を調査可能
・一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者):すべての建築物を調査可能
・一戸建て等建築物石綿含有建材調査者(戸建調査者):一戸建ての住宅、および共同住宅内の住戸部分を調査可能
一部の工作物では、2026年1月1日以降に着工する工事から、工作物石綿事前調査者などの資格者による事前調査が必要です。調査対象に応じて必要な資格を確認しましょう。
小規模の解体・改修でも事前調査が必要となることに注意
小規模の解体・改修工事の場合に電子システムによる行政への報告義務が免除される場合があることから、「アスベスト事前調査が必要なのは大規模工事だけ」と誤解されるケースも少なくありません。
しかし、法令の対象となる建築物・工作物の解体や改修では、工事の規模(金額や面積など)にかかわらず事前調査が原則必要です。規模要件がある行政報告と混同しないようにしましょう。
「新しい建物だから調査は必要ない」という解釈は間違い
2006年(平成18年)9月1日以降に着工された建築物でも、設計図書などで着工日を確認し、事前調査結果として記録します。行政への報告は、解体床面積や請負金額などの規模要件に該当する場合に必要です。
2006年9月以前に建設された建物については、そもそも「アスベストが使われている可能性」を前提に本格的な調査をしなければならない、という考え方となります。
アスベスト調査の4つの基本的なステップ

工事の元請業者がアスベスト調査を実施する場合、基本的に以下のような流れとなります。
各ステップについて、具体的にみていきましょう。
【アスベスト調査の基本となる4つのステップ】
1、書面調査
2、現地調査
3、分析調査
4、結果の報告・記録
1. 書面調査
工事の発注者から建築物に関する設計図書や過去の改修記録といった情報提供を受け、まずは書面調査を実施します。
図面から使用されている建材名やメーカー、着工年を確認し、あらかじめアスベスト含有の可能性をアタリをつけておくことで、現地での見落とし防止となります。そのため、現地調査に行く前のこの設計図書(図面)の読み込みは極めて重要です。
2. 現地調査
現地調査の主な目的は、「設計図書などの書類でわかる状況と、実際の現地の状況に相違がないか」を確認することです。書面の情報だけに頼らず、実際の施工状況を目視で確認することが重要になります。
設計図書どおりに施工されているとは限らず、改修によって建材が変更されていたり、図面にない建材が使われていたりする場合も。そのため、目視や打診によって使用されている建材を一つずつ確認し、書面との相違や石綿含有の可能性を見落とさないよう調査します。
3. 分析調査
書面調査と現地調査だけでは石綿含有の有無を判断できない建材は、試料を採取し、JIS規格に基づいて分析します。試料の採取位置や必要量、梱包方法は、依頼する分析機関に事前に確認してください。
ただし、対象建材を石綿含有建材とみなす「みなし判定」を行い、必要な除去・飛散防止措置を講じる場合は、分析を省略できます。みなし判定では分析費用を抑えられる一方、石綿含有建材として扱うための工事費用が発生します。
分析する場合とみなし判定をする場合の工程・費用を比較したうえで、資格を持つ調査者と対応を検討しましょう。
4. 結果の報告・掲示・記録
アスベスト調査の結果を記録し、発注者へ書面で説明します。一定規模以上の工事では、石綿事前調査結果報告システムなどを通じて、行政への報告も必要です。
調査結果の記録は工事終了日から3年間保存し、工事中はその写しを現場に備え付けなければなりません。また、調査結果の概要を現場の見やすい場所に掲示する必要があります。必要な情報を適切に残せるよう、書面調査や現地調査の段階から、判断根拠や写真などを整理しておきましょう。
以上の4ステップがアスベスト調査の基本の流れとなります。詳しくは環境省や厚生労働省といった公的機関の情報もご参照ください。
アスベスト分析の種類|定性分析と定量分析の違い
アスベスト事前調査のうち「分析調査」は、現地で採取した試料を、必要な知識・技能を有する分析者がJIS規格等に基づいて分析します。分析には2種類あり、含有の有無を調べる「定性分析」と、含有率を数値で求める「定量分析」があります。
それぞれ目的や必要となる場面が異なるため、工事内容や分析結果に応じて適切に使い分けることが重要です。ここでは、定性分析と定量分析の違いや主な分析方法について解説します。
定性分析
定性分析とは、採取した試料にアスベストが含まれているかどうかを調べる分析です。リフォームや解体に伴う事前調査では、まず書面調査と目視調査を行い、それだけでは石綿含有の有無を判断できない建材について分析を実施します。
日本の法規制では、石綿を0.1重量%を超えて含む建材が規制対象です。適切な手順による定性分析でアスベストが検出されなかった場合、その建材については石綿飛散・ばく露防止対策を講じる必要はありません。ただし、事前調査結果の記録や報告などの義務までなくなるわけではない点に注意が必要です。
一方、アスベストが検出された場合は、定量分析を行わず、0.1重量%を超える石綿含有建材とみなして工事を進めることも可能です。その場合は、建材の種類や作業方法に応じた石綿飛散・ばく露防止対策を講じます。
定量分析
定量分析とは、採取した試料にアスベストが何重量%含まれているかを数値で求める分析です。定量分析の実施は必須ではありません。
定量分析を検討するケースは、定性分析の報告書に「微量に検出」「1本のみ確認」「外部から付着した可能性がある」などの記載がある場合です。定量分析によって含有率が0.1%以下と確認できれば、石綿に関する規制や石綿含有廃棄物としての取り扱いの対象外となるため、工事費や廃棄物処理費を削減できる可能性があります。
0.1%以下であっても、解体や改修によって発生した廃棄物を一般ごみとして処分できるわけではありません。廃棄物の種類に応じて、通常の産業廃棄物として適切に処理する必要があります。
アスベスト事前調査にかかる費用
アスベスト事前調査の費用は、調査をどこまで外部へ依頼するかによって異なります。必要な資格を持つ調査者と調査体制を社内で確保している場合は、書面調査や現地調査を自社で実施し、分析調査のみを外部の分析機関へ委託することも可能です。
事前調査を外部の専門業者へ依頼する場合、費用を左右する主な要素は、建物の規模・構造・用途などです。延床面積や部屋数が多いほど調査に必要な工数が増えるほか、木造・RC造・S造といった構造や建物の用途によって、確認すべき建材や調査範囲も変わります。
分析調査の費用は、依頼する分析機関や検体数などによって異なります。採取・分析する検体数が多いほど、総額も高くなる傾向があります。
具体的な費用を把握するには、建物や工事の条件、希望する委託範囲を整理したうえで、専門業者へ見積もりを依頼しましょう。その際は、書面調査・現地調査・試料採取・分析調査のうち、どの工程まで料金に含まれているかを確認してください。
アスベスト調査についてのまとめ|関連機関のデータに基づく今後の展望
国内のアスベスト輸入量は1974年にピークを迎え、1990年頃まで高水準で推移した後、2005年頃にはほぼゼロまで減少しました。一方、環境省は、石綿含有建材が使用されている可能性のある建築物等の解体・改修工事が、2028年頃にピークを迎えると予測しています。
リフォーム会社や解体業者には、事前調査や調査結果の報告を法令に沿って効率的に進める体制づくりが、これまで以上に求められるようになっていくでしょう。
参考:環境省「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン(改訂版)」000066254.pdf
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